研究室の挑戦

環境に優しい合成化学を開発【桐原研究室】

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有機化学・医療品科学研究室 桐原正之教授

まだ存在していない合成法を見つけるために。
環境に優しいクリーン反応が、人と地球を救う。


研究課題

環境調和型有機合成反応の開発と、
医薬品開発を志向した合成化学の研究。

有機化学は「分子レベルでのものづくり」。

世のため人のため、世界がより良く進歩していくために、新しい化学反応や合成法を見つけたい。
それが、桐原正之教授が担当する、有機化学・医療品科学研究室の思いだ。

AとBの薬品を混ぜて、Cを合成する。
我々は「合成化学反応」を活用して、様々な合成物(新素材や医薬品、農薬など)を作っている。
それは、もしかしたら人の命を救う特効薬になるのかもしれない。

しかし、それを作るためには、地球環境に負担をかける可能性がある。
合成に使用される薬品が、有毒な試薬であったり、化学反応時に環境汚染物質が産出されることがあるからだ。

それを防ぐためには、最初から有害物質を用いたり汚染物質を排出しない、環境に優しい有機合成化学反応(グリーンケミストリー)を研究し、新しく環境調和型の合成法を開発すれば良いのではないか。

環境に優しい新しい合成化学を開発し、新しい医薬品合成法を創出する。
グリーンケミストリーの研究が、はじまる―。



研究室の取り組み

環境に負担をかけない「酸化還元反応」
医薬品開発へ向けた研究にも意欲的

例えば、化学反応時に生成物が出来る過程において、化合物間で電子の授受がある反応を指す「酸化還元反応」を使った合成法。

ある物質が酸化される時、必ず平行して別のある物質が還元されるため、物質を酸化させたい時は、還元される物質も1:1の割合で用意する必要がある。
つまり、酸化反応を起こすと、必ず還元反応も同時に発生するのだ。

酸化物質を得ると同時に還元される物質。
還元物質は廃棄物、いわゆるゴミだ。
本来必要のない物質、これが無害なものであれば問題はない。

しかし、それは、簡単なようで難しい。

従来、アルコールの酸化反応には、重金属のクロム(Cr)を使うのが通常であった。
酸化反応を起こすためには大量のクロム化合物が酸化剤として使用されるが、クロム化合物は毒性が強い。
さらに酸化反応の後にも、別のクロム化合物が廃棄物として多量に発生してしまう。

そこで、桐原研究室で開発されたのが、環境に負担をかけないクリーンな合成法「バナジウム触媒と酸素を使ったアルコールの酸化反応」だ。

三塩化酸化バナジウム(VOCl3)を触媒として少量、酸素(O2)と一緒に反応させると、廃棄物として生じるのは「水(H2O)」だ。
水であれば、どれだけ大量に放出しても害にならない。
これが、環境に優しいクリーンな合成反応だ。

さらに、この反応は、安定性も高い。
実験過程で分解されることもなく、安定した結果が得られる。
桐原教授の下で研究を続けた学生が発見した合成法である。

現在、研究室では、新しい医薬品開発に繋がる合成反応の研究にも積極的に取り組んでいる。

「アフリカ睡眠病」をご存知だろうか。
アフリカで流行する、ツェツェバエが媒介する伝染病で、症状が悪化すると死に至る危険性がある病気だ。

現在は治療薬が少なく、また副作用の強い薬がほどんどのため、新しい治療薬の開発が求められている。
桐原研究室では、今まで研究室で培ってきた知識を基に、新しい合成法を生み出そうと、日々研究に取り組んでいる。

また、人間情報デザイン学科・奥村哲教授の神経行動学研究室と協力した、脳に働く薬「抗うつ剤」の研究にも意欲的だ。



研究室×企業

企業の悩みを解決する糸口を発見
効率化もコスト削減も手助けできる

研究を続けていると、企業側の悩みを解決する糸口も見つかる。
実際に、研究室で開発された環境調和型合成法は、工業レベルでの実用化も行われている。

例えば、日本軽金属株式会社との共同研究。

「次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)」は、漂白剤や食品の殺菌消毒として使われる化合物である。

通常は、水溶液として使われる。
非常に不安定な物質で、常温保存では濃度の維持が難しい。
高濃度状態だとすぐに分解されてしまい、反応時に塩素酸ナトリウムが発生すれば、爆発事故を引き起こす危険性もある。
低濃度での使用であれば安全だが、その分多量の水溶液が必要となり、コストがかさむことになる。

それを打開すべく、日本軽金属株式会社が開発に成功したのが「次亜塩素酸ナトリウム5水塩(NaOCl・5H2O)」の結晶だ。

不純物が極めて少なく高純度、水溶液の3倍以上の高濃度、結晶のため安定性もあり長期保存も可能、さらに酸化作用も強力な機能性の高い物質の誕生。
工場スケールの大量製造にも活用でき、研究の効率化はもちろん、排水処理負荷も低減、コスト削減にも役立つ。

桐原教授は、その結晶を利用した新しい化学反応について、日本軽金属株式会社と共同研究を続けている。

<このような基礎反応は様々な化学反応に応用できるため、製造分野や薬品分野など、多様なメーカーでの研究に対する活用が期待できる。
水溶液状態では失敗したものの、この結晶を使ったことで成功した実験例もあり、新たな化学反応の酸化剤としても注目されているという。

この研究結果は、医薬や農薬を核とする機能性物質の製造法を研究している「日本プロセス化学会」からは、優秀発表賞を受賞した。



研究がもたらす未来

大学の研究室ならではの研究
有機化学で世の中へ貢献していく

このように、桐原教授率いる有機化学・医薬品科学研究室が「世界で初めて開発した合成反応」は、実は数多く存在する。

結果や利益を求められる企業ではなく、大学だからこそできる研究がある。
大規模で派手な研究ではないかもしれない。
しかし、その研究が、企業の研究開発に役立つことも多々ある。

「宝探しのような感覚で、研究を楽しみたい。何か面白い合成法を見つけて、それで世の中に貢献できれば嬉しい」。
ユニークな視点で新しい反応を日々探し求める、桐原教授らしい言葉だ。

有機化学の力で、世の中を変えていく。
新しい医薬品や工業製品などの開発に繋がる、基礎研究。
人にとっても環境にとっても優しい合成法が、私達の生活をより豊かにする日は、きっと近い。



研究室の雰囲気

チームを組んで研究に明け暮れる
研究に対する熱意が詰まった研究室


学生が自主性を持ち、日々実験に明け暮れる有機化学・医薬品科学研究室。
大学院生が大学生に教え、全員で知恵を出し合い、チームとして動く。まるで企業の研究チームのようだ。

簡易的な実験器具や試薬作りも学生自身が行い、有効な合成法を考え、検討し、実験、観察、記録する。
桐原教授は「何をどうしてこうなった」の説明ができ、原因がわかっている場合の失敗は、失敗ではないと捉えている。
「何か新しいものが見つかれば良い」と。実際、失敗から新しい発見が生まれることも多いという。

学生は合成したものを自分で測定、分析する力も養う。
「先端機器分析センター」で、自分で装置を扱い、結果を記録。
プレゼン能力も求められる研究の世界。
その勉強も兼ねて、研究室では、研究経過報告として毎週発表を行っている。

桐原教授が大切にしているのは、研究に対する好奇心。
それは、未だ見たことのない合成反応への熱意やワクワク感。
まだ誰も気がついていない、誰も挑戦したことのない研究。
何気なく思ったことを突き詰め、結果を導きだす。

 

有機化学研究室への道

化学式を覚え、考え、使いこなす。
大学に入ってからの勉強が鍵となる


「化学式を使いこなして、研究する」。
有機化学・医薬品科学研究室は、覚える内容も膨大だが、それ以上に考える力が求められる。

日々行われているのは、実験や研究だけではない。
週2回、9時から行われる「ウォーレン有機化学勉強会」。
桐原教授も「かなり難しい」と言う分厚い教科書を使っての勉強会だ。

ホワイトボードいっぱいに書き込まれる化学反応式。
教科書本文は各自が自習し、それぞれが担当する演習問題の解答を、学生自身が解説するスタイルだ。
もちろん、教授からの厳しい指摘もある。「どうしてこうなったのか」「この化合物は何?」
答えを導きだすことよりも、その過程を大切にしている桐原教授らしい。
学生たちはその疑問に答えられるように、各自準備をしていく。

教科書演習問題の解説本は英語版しかないため、英語を読み解く力も養われる。
妥協しない教授の下で、学生たちは確実に知識を深めていくことになる。
勉強会は、研究室への配属が決まる前の3年生でも志願して参加することができるため、3年生から大学院生までが一緒に勉強する。有機化学への熱意が、学生を突き動かしていることがわかる。

有機化学の勉強は、大学に入ってからでも遅くはない。さらに、数学が苦手でも問題はない。
訓練を積み、実験を重ねることで有機化学がどんどん面白くなる。
目の前にあるモノを観察、分析、解明する自然科学と異なり、有機化学は、自然界では本来出合わないモノを掛け合わせ、今までにないものを作る学問だ。 どれだけ頭の中で考えても、予測が難しく、実験をしてはじめて結果がわかることも多い。

未知なるものへの好奇心を持ち、化学が大好きな人にこそ挑戦してほしい研究室だ。

 

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