情報学とは?

  情報学は,情報のあらゆる学問領域をカバーする学問です.「情報学とは何か」(小野他著,国立情報学研究所監修)では,情報学を,

「情報の獲得,表現,蓄積,流通,検索など,情報が発生し,収集・処理され,活用されるすべての過程における学問」

と定義しています.

  もちろん情報というものが,最近突如現れたわけではありません.人間が出現する遙か昔から,情報は社会の中で重要な役割を果たしてきました.しかし,人間が出現してからも,情報は身近な生命(人間)間だけの問題であり,また,大量の情報を支配できるのは一部の人間だけでした.コンピュータ,特に,インターネットが出現してからは,様相が異なってきました.多くの人間が,大量の情報を獲得,表現,蓄積,流通できるようになりました.これが,「情報学」という学問分野が生まれた背景にあります.

  現在の高度情報化社会における情報の役割を図に描けば右図のようになります.情報学が対象とする分野といってもよいかもしれません.一般的には,情報学の対象とする分野は,コンピュータに関連する分野ですが,人間と人間や人間と社会とのように,その中にコンピュータが介在しない情報の存在も無視すべきではありません.むしろ,その分野があるからこそ情報学という分野が存在すると言っても過言ではありません.情報学は,人間及びその周りのすべてのもののための情報学であるべきです.コンピュータだけを意識した情報学など無用です.

  情報学を,既存の学問分野で表現すれば,右の図のようになります.ただし,主として本学部が対象としている分野(関連する講義が存在する分野)だけを記述しています.各分野の概略を示せば以下のようになります(右図の分野名をクリックしても移動できます).

  この図からも明らかなように,情報学部は,文系でも理系でもありません.本学部では,そのような枠組みにとらわれない真の情報学を目指しています.世間一般では,相変わらず文系とか理系とかの分類が横行しているため,広報戦略として,便宜上学科を分けていますが,あくまで仮の姿です.学科の枠にとらわれず,各分野の特徴を理解し,自分の学ぶべき道を探してください.

  1. 情報学の基礎理論
      情報学の様々な分野に対する基礎理論です.「微分・積分」,「線形代数」,「代数系」,「論理数学」,「アルゴリズムとデータ構造」,「数値解析」,「統計解析」,「符号・暗号理論」,「オペレーションズリサーチ」など,数学及びその応用分野からなっています.もちろん,すべての分野において,数学的な基礎を必要とするわけではありませんが,程度の差こそあれ,多くの分野で要求されます.多少でも興味があれば,履修しておくべきです.特に,将来,研究者を目指したいような人は必ず履修すべきだと思います.大学の数学には,高校までの数学とはかなり異なったものもあります.それらによって,今まで嫌いだった数学が好きになる可能性もありますので,数学嫌いの人も是非挑戦してみてください.

  2. コンピュータの基礎
      「計算機アーキテクチャ」,「計算機ハードウェア」,「コンピュータネットワーク」,「情報セキュリティ」など,コンピュータやコンピュータネットワークの設計の基礎となる分野です.コンピュータを単に使う立場から見れば,コンピュータがどのように設計されていても構わないわけですが,逆に,そのようなことを知らなくても簡単に使えることが望ましいわけですが,現在のコンピュータはそこまで進化していません.使用する目的によっては,コンピュータがどのような思想で設計されているかを知る必要があります.また,知っていた方がより優れた使用方法が可能になるといった場合も少なくありません.

  3. ソフトウェア
      ソフトウェアに関する分野です.このように言ってしまうと,情報学のほとんどの分野が含まれてしまいますが,主として二つの分野から構成されています.一つは,「オペレーティングシステム」,「UNIX」,「コンパイラ」など,コンピュータを動作させるために最低限必要なソフトウェア(基本ソフトウェア)及びそれに近いソフトウェアを対象とします.基本ソフトウェアは,コンピュータの設計方法と密接な関係がありますので,「コンピュータの基礎」分野に入れてもよいかもしれません.
      あと一つは,ソフトウェアの作成方法とそれを作成する言語(「プログラミング入門」,「プログラミング及び演習」,「オブジェクト指向プログラミング」,「Web プログラミング」など)に関する分野です.現在,目的に応じて様々なソフトウェアが存在し,あえてプログラムを書かなくてもコンピュータを使って仕事を行うことができる場合も少なくありません.しかし,それらのプログラムは誰かが書かなければなりません.さらに,それらのソフトウェアで処理できず,新たにプログラムを書かなければならない場合も多くあります.人間に対して依頼するように,実行してもらいたいことを日本語などで伝えれば,後はコンピュータがやってくれるようになればソフトウェアを書くという作業は必要なくなりますが(勿論,そのような処理をするプログラムは誰かが書かなければなりませんが,その仕事に係わる人間は非常に少なくなります),当分そのようなことは望めません.様々な場合に,多くの人が,プログラムを書くという仕事に携わる必要があります.

  4. 人工知能と認知科学
      「ソフトウェア」分野でも述べたように,目に見えるものを正しく認識する,耳から入った情報を正しく理解する,日本語を正しく話す,自分で学習しその知識を増やす,など,人間がいとも簡単に行っている知的行動を実現することは,現在のコンピュータにとっては非常に難しい問題です.コンピュータをより使いやすくするためにも,また,自立的に行動できる知能ロボットの実現のためにも,必ず解決しなければならない問題です.この問題を解決しようとするのが「人工知能」です.
      人工知能を実現するためには,人間の知的行動を知ることも重要です(「感覚知覚」,「学習と発達の心理学」など).また,人工知能の実現ということをターゲットにしなくても,人間の知的行動は,使いやすい機械(ハードウェア,ソフトウェア)の設計や,さらには,後に述べる人間同士のコミュニケーションにとっても重要な課題です.認知科学は,人間の知的行動の仕組みを研究する心理学,人工知能,言語学などの学際領域であり,それら各分野と強い関係があります.

  5. 生命情報
      人間の知的行動を実現しているのは脳の働きです.脳は,コンピュータと同じような情報処理装置と考えられますが,その能力は,一部の能力を除きコンピュータを圧倒的に凌駕しています.従って,人工知能の実現のためには,脳の組織や機能を知ることは重要です(「感覚生理」,「脳と情報」など).また,認知科学などと同様に,脳からの信号によって直接機械を制御するなど,使いやすい機械の設計にも関連があります.
      また,人間の多くの能力の源泉は遺伝子にあると思われます.誕生してから,人間は,発達や学習を通してその能力を高めていきます.また,怪我をしても,自らの力で修復していきます.これらの能力を知り(「遺伝子とバイオインフォマティクス」,「発生学と生命システム」など),それを機械(コンピュータ)に持たすにはどのようにしたらよいのでしょうか.将来の重要なテーマです.

  6. 教育情報
      学校において,決まった時期に学習するといった従来の方法から,時間も場所も限定されない方法が広まりつつあります.その原因の一つはインターネットの普及にあります.インターネットは,「いつでも,どこでも,自分の能力に合わせて」学習する環境を整えてくれました.この環境を更に改善するためには,その方式を十分理解しておく必要があります.更に,問題なのは,その内容です.現在では,自学自習タイプの学習方式といっても,単に資料や演習問題をインターネットを介して提供するといった方式に留まっています.「自分の能力に合わせて」学習できるためには,コンピュータがその人の能力を認識し,適切な指導を行ってくれる必要があります.ここでも,人工知能の実現が重要になってきます.

  7. メディア
      現在のコンピュータは,文字情報だけでなく,音声,画像など様々な情報を扱うことができます.しかし,音声や画像情報は,文字情報に比較して,その情報量が膨大になります.そのため,その情報処理方法は複雑になります.多様なメディアを扱うためには,当然その基本を理解しておく必要があります(「コンテンツデザイン概説」,「ハイパーメディアコンテンツ」,「コンピュータミュージック」,「CG 基礎」,「CG アニメーション」,「画像情報処理」など).また,音声や画像の処理方法は,音声や画像を理解するといった人工知能にも強い関係があります.

  8. 社会情報
      現在は,様々なメディアを通して,大量の情報を得ることができます.しかし,それらの情報のすべてが有益なものであるとは限りません.場合によっては,誤った情報も含まれている可能性があります.例えば,新聞情報一つ取ってみても,同じ事象に対して,新聞によってその報道内容が大きく異なる場合も少なくありません.今後の社会において,情報を正しく判断する力(メディアリテラシー)を養うことは非常に重要です(「メディア情報論」など).
      また,アンケートの結果を見たり,また,自分自身がアンケートに答えるような機会が多くなっています.コンピュータによる情報処理が容易になってきたことがその一つの原因になっています.しかし,すべてのアンケートが適切に作成され,かつ,その結果が適切に処理されているとは限りません.したがって,メディアリテラシーを高めるためにも,アンケートの作成方法や結果の処理方法を知る必要があります(「情報分析論」,「社会調査法」など).

  9. 経営情報
      経営にとっても情報は非常に重要です.生産.物流,販売の各部門にとって情報は必要不可欠のものであり,情報なしでは企業は存在し得ないと言っても過言ではありません(「経営工学概論」,「ロジスティクス」,「経営情報システム」,「物流情報システム」など).最近では,SCM(Supply Chain Management)のように,従来各部門で行っていた最適化から,生産.物流,販売のすべてを統合した最適化を目指す方向に向かいつつあります(「SCM」).
      また,インターネットを介した宣伝,販売など,生産者と消費者が直接結びつく機会も多くなっており,従来の生産者と消費者との関係も変わりつつあります.そのような中で,google などの新しいビジネスモデルが続々と誕生しています.今後,ビジネスの中で情報を有効に利用するといったことだけに止まらず,情報はビジネス自体を大きく変革させていくことになると思われます.

  10. コミュニケーション
      人間対人間のコミュニケーションこそが,情報の獲得,表現,蓄積,流通,検索の基本です.少なくとも人間社会における情報学はそこに基づいているべきです.そのような意味で,人間の行動,人間が使用する言語(自然言語),文化などについて知ることは,情報学の基本であるといえます(「言語情報論」,「国際コミュニケーション論」など).

  最後に,最も重要なことに触れておきます.今までは,人間の社会だけのことを話してきました.しかし,人間は単独に存在しているわけではありません.人間以外の他の多くのものによって生かされているのです.そこから得る情報,そこへ与える情報こそ,人間が存在していく上で最も重要なものです.この講義では直接触れませんが,情報学では,常にそれを意識していく必要があります.

  ただし,それらの情報を”環境保護”の為に使おうと言っているわけではありません.”保護”という言葉は,保護する側が保護される側より上位にあるといった考えから生じた言葉です.人間は,環境の上位に位置するわけではありません.むしろ,環境は,”恐れ,敬う”べき存在です.明治以来,西洋文明と共に入ってきた「人間は人間以外のものを人間が望むままに制御できる」という誤った考え方に支配されてきました.この誤った考え方を打破し,すべての存在にとって好ましい情報学を築き上げていく必要があります.さもなければ,人間の未来はありません.

レポート: 将来の目標,なぜその目標を選んだのか,その目標を達成するためにどのような分野について学びたいのか,などについて,レポートを提出せよ( 400 字以上 ).

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