【人間情報デザイン学科 榛葉豊】世界をどうきりわけているのか

ベンフォードの法則

 自然界や社会など,何でもいいから数値データをたくさん集めてみたときに,それらの数値の最上位桁は1~9までの数字のどれが多いだろうか.データは意図的なものではなく,自然に発生した数値で,たとえば電子の質量,アヴォガドロ数,光速度・・・などの物理定数,分子量,生物の大きさ,火山や地震に関する数値,・・・などの物質や地球・天文に関する数値,世界の各都市の人口,各種予算額,・・・などの社会に関する数値,新聞に現れる各種の数値.なんとなく1で始まる数値が多いような気がしないだろうか.

 実際に1で始まる数値が多くて,それは1938年に,フランク・ベンフォードという物理学者によって唱えられたたことである.私も本学の卒業研究で調べさせたことがある.1の割合は約30%である.もし全ての数字に対して可能性が一様に分布するのなら,最上位桁は0にはれないから,可能な数字は9通りであり,1は 1/9 = 11.11%になるはずである.
 1が多いということは,もっと昔から気がつかれていた.1881年に天文学者サイモン・ニューカムは,対数表において,1で始まる数の対数を求める頁は,調べられる頻度が多いので端がすり切れている率が高いことに気づいていた.もっと最近では,税金や会計の不正を発見することにこの性質は使われている.数値を偽装しようとする人々はベンフォードの法則を知らないので,彼等が偽装する偽のデータには1が現れる割合が小さすぎて不自然だからである.
1が多いということは,ミクロからマクロまで「多くの桁に渉る広い規模範囲の数値は,対数目盛に対する一様分布で近似される」と考えればうまく説明がつく.ここに対数目盛とは,数値を直線上にその対数値だけの長さの位置に目盛ったものである.
数値というものは,ある単位ではかり,その単位が大きいか小さいかは人間の都合で決まる部分もある.だから何桁になるかという部分も不確定といえる.そして10進法表記をしているということも人間の都合である.だから数字の部分も桁数についてもランダムといえるだろう.
 もし単純な一様分布であるとしたら,何桁にも渉った数値分布であっても,1の割合は1/9になるわけだが,普通の目盛りでは,何桁にも渉る数値を視覚的に表すことは出来ない.小さい数値は異なっているのに区別できなくなり,大きな数値は見渡せなくなる. 対数目盛でないと,何桁にも渉る現象全体を見渡し且つ微細な区別もつけられはしないのである.だから,そのような対数目盛に対して一様な可能性を割り振ることは自然であろう.そしてまた実際とも一致している.
 それでは,どのような目盛(変数)に対して一様あるいは同等な可能性を割り振るのが自然なのだろうか.そして論理的整合性があるのであろうか.古くはライプニッツが不充足理由律といい,ラプラスの確率論では同等の可能性をもつ場合に切り分け・・・といわれ,ケインズは無差別の原理と呼んだ事柄である.それ以上切り分けられない場合の中で,何と何が同じ可能性を持つのだろうか.
 ベンフォードの法則では,自然が無差別の原理をどう適用すればいいか示してくれている,ともいえそうだが,しかし世界を観察し切り分ける人間の側に根拠があるのかもしれない.
確率の本によく紹介されている例を2つほど紹介しよう.

ベルトランのパラドックス

 半径が1の円とその円の弦を考えよう.弦は,全く任意に張られるとする.

問題:この弦が,円に内接する正三角形の一辺より長い確率を求めよ.
① 弦とそれに直行する半径考えその交点をXとすると,円の中心OとしてOX<1/2なら問題の条件に適合する.長さ1の半径上に,点Xが特定の位置に存在する可能性は一様であるとすれば,問題の確率は 1/2 である.
② 円周上の点Yで直線が接しているとする.一般性を失わずに弦はYを通るとして,Yを中心とした角度で種々の可能性を考える.弦が問題の条件を満たすのは,Yを通る著系を中心にして,π/3 の角度範囲である.角度について可能性は一様だと考えると,問題の確率は 1/3 である.
③ 半径1の円の中に半径1/2の同心円を書けば,弦の中点が内側の円に入っていれば,問題の条件に合っている.弦の中点は面上で一様に分布すると考えれば,円の面積比から,問題の確率は 1/4 である.

 考え方で確率の値は変わってしまうように見える.しかしこの場合は,どのようにランダム現象が起こっているのかの物理的特性を考えると解決するようにも思える.固定されている円に,ランダムに直線が落ちてきて弦となると考えれば,その実験状況を分析すれば,角度か,2次元の位置か,というような考察が出来る可能性があるように思える.いやそれは絨毯の皺をベッドの下にたくし込んでいるだけなのだろうか.

ワインと水のパラドックス

 ワインと水を混ぜる.その比率は,片方が他方の3倍を超えることはないものとする.ワインの量割る水の量の比をRとすると,Rは1/3と3の間である.この間に一様に可能性が分布するとすれば,Rが2以下の確率は,2-1/3と3-1/3の比,すなわち5/8である.しかし,R′=1/R ,すなわち水の量割るワインの量という変数を考えると,R=2は  R′= 1/2 であり,R′の範囲はやはり 1/3と3の間である.前と同一の意味を持つ命題,すなわちR′が 1/2 以上の確率は,15/16 となる.
 RとR′のうちどちらに興味があるか,という人間側の都合で答えが違う・・・それで説明になっているだろうか.考えてみられたい.