【人間情報デザイン学科 大椙弘順】 生命とは何か、あらためて考えてみませんか?

私の(元の)専門は生命科学(発生学)で、大学では、生命に関する講義を担当しています。昨年はSTAP細胞真偽問題が一般社会でも注目され、再生医療とも関連して生物学に対する関心が高まったような、妙な年となりました。年の初めに、私たちも含めた「生命とは何か?」について、改めて考えてみるのもいいのではないでしょうか?

大学1年生向けに開講している「生物学」という科目の最初の回に、私はいつも学生さんに「生命とは何でしょうか?」という問いかけをしています。この問いかけに対する答えは、それぞれがどのような観点から「生命」を捉えているのかにより、様々なものになります。

「生命とは何か?」という問いに対して、大きく2つの見方、“ 能力 ” と “ 仕組み ” とに分けて考えてみましょう。もちろんこの2つはお互い重なりあうところがあり、完全に分けることは難しいのですが、次のような2つの問いかけに分けてみたいと思います。

(A)「生命」を成り立たせている「全ての生命体が共通にもつ能力」とは何でしょう?
(B)「全ての生命体が共通にもつ仕組み」とは何でしょう?

このとき、「全ての生命体」というのがポイントの一つです。動物、植物、・・バクテリア、などの我々が知りうる全てを対象とします。さて、皆さんも考えてみていただけるでしょうか?

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ここでは(A)について、私なりに、少しお話したいと思います。
“ 能力 ” を大きな枠で捉えてみましよう。そうすると、「全ての生命体が共通にもつ能力」を「3つの能力」にまとめることができると思います。つまり、その「3つの能力を全て持つもの」を生命体と呼んでもよろしいだろう、ということです。・・・それはどんな能力だと思いますか?

私は、以下の3つの能力にまとめることができると思います。

(1)自己と同じようなコピーをつくりだせる。
(2)世代を通して、進化(変化)することができる。
(3)自己の存在を積極的に維持しようとする力(作用)をもつ。

(1)と(2)は直ぐに理解いただけると思います。(1) は子孫を残せる能力です。(2) の能力で、地球上には多様な生き物が存在するようになりました。ちなみに生物学上での「進化」には「良い・悪い」の概念を含みません。変化することがポイントとなります。

さて、(3) はとても多くの事柄を含む、ひとくくりに大きくまとめた見方になります。私たちがものを食べたり、呼吸をしたりするのもこの力を働かせるためです。あるいは、ものを考えることも、外界や世間でうまくたち振る舞うことで、自己の存在を心地よく維持しようとすることと捉えることができるでしょう。身体的には、少しの怪我ならひとりでに治ってしまうことなどもここに含まれます。細胞レベル、分子レベルでは、(3) を可能とするために、古くなった構造体や構成分子は、常に新しいものに置き換わっているのです。

ところで、上記(1)~(3) の全てをもつものが「生命」で、全てをもつわけではないものが「無生物」とした場合に、もし、ロボットに(1)~(3) の全てをもたせることができたら、それを、ある種の「生命」とよぶことができるかも知れません。

身近になった「お掃除ロボット」は部分的に(3) の力をもっています。… バッテリー不足を回避するため自分で充電ステーションに戻っていきます。これは「自己の存在を積極的に維持しようとする力」の現れです。だたし、電気をつくり、供給するシステムを維持しているのは人間ですので、現時点では、ごくごく一部の能力をもつにすぎません。しかし、もう少し先を考えてみましょう。既に、自動車工場をはじめロボットが機械の組み立てに大活躍です。もし、ロボットがロボットを組み立てるという図式が完成した場合、ロボットたちは集団として(1) の力を持つことになります。ただし、その際も、部品の原材料の製造から電力供給システム、製造ラインまでの全てをロボットたちが自己完結的につくりだせるようになった場合の話しになります。現実的にはまだまだ先のお話となるでしょう。では、仮にそのような状況が出来上がったとき、(2) の能力は持たせられるでしょうか? ロボットの設計もロボット自身がやり出せば(2)も可能となるでしょう。さらに、上記の自己完結的な、ロボットたちによるロボット工場が実現された場合には、ロボット集団の協力作業として(3) の「自己の存在を積極的に維持しようとする力」も発揮されるでしょう。つまり、調子の悪くなったロボットは、他のロボットの協力のもとで修理され「自己の存在を維持」することができるようになります。…

さて、ひるがえって、現代社会の私たち自身のことを考えてみましょう。私たち人間はもちろん生物として上記(1)~(3) の能力をもちます。すなわち、(3)についても、仮に無人島で一人になったときでも、なんとか生きていくことはできるでしょう。しかし、現代社会での私たちは、特に(3) については、既にその一部を、上記の仮想ロボット社会と同じような状況の中で実現させているのではないでしょうか?。 「ものを食べる」ためには、多くのものをスーパーで買ってきます。少しの怪我や風邪ならばひとりでに治りますが、病院のお世話にならないと(3)を実現できないことも多くなっています。…そんなことを思うと、私たちは既にある意味、上記仮想ロボット社会のような中で(3) の実現を図っているわけです。

近年、再生医療をはじめ、生命を操作する科学・医療技術がどんどん進歩しています。上記のようなことを思ったとき、どこまでその力を借りて(3)を実現させるべきなのか…「将来的には、何をもって生命と呼ぶか」を考えさせられる、とてもなやましい問題と思います。

ロボットについてのもう少し突っ込んだ話しや、上記(B) の答えについては、またの機会があればお話したいと思います。(「生物学」の講義の中でも触れていますので興味がある方はどうぞ。)

【総合情報学部】
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