【コンピュータシステム学科 菅沼義昇】 教育方法について

 学生が勉学に興味を持ち,自ら学び,内容を深く理解して貰うことを目的として,「ものから入る教育」,「反転授業」,「PBL(Project Based Learning. Problem Based Learning)」など,様々な教育方法が提案されています.また,ほとんどの大学において,学生による授業評価アンケートが実施され,講義方法やその内容の良し悪しを学生に評価して貰っています.ある教育方法,例えばPBLが話題になると,多くの授業をPBLの形で実行する方向に進み,授業評価アンケートの結果は,場合によっては,教員評価に影響を与えています.しかし,このような方向が本当に正しいのでしょうか.確かに,教育効率などの点から見れば,平均点に基づいた評価が良いのかもしれません.やはり,何か引っかかります.
  学生によって,その能力,性格,考え方など大きく異なります.ものに触れ,ものに興味を持ち,その基本的な原理を知りたくなり,理論について学びたくなるような学生にとって,「ものから入る教育」は打ってつけの教育方法です.確かにこのような学生は多いのかもしれませんが,100%であるとは言えません.また,同じ科目を複数の教員が担当した場合,教員毎に授業評価アンケートの結果は異なってきます.その際,100人の内50人が良いと行った講義の方が,100人の内10人が良いと行った講義より,良い講義なのでしょうか.10人が50人の部分集合であることが言えるようであればそうかもしれません.しかし,このような分析は全くなされていません.10人すべてが50人の部分集合とならないことも十分考えられます.学生によって,能力,性格,考え方などが大きく異なるからです.
 以上述べたように,現在,教育方法等の評価はほとんど多数決で決められています.確かに,効率的なことを考えればやむを得ないかもしれません.しかし,このままでは,少数派に属する学生はますます無視されていきます.これで良いのでしょうか.すべての学生に対して適用可能な理想的な教育方法があるとは思えません.すべての教員があらゆる教育方法をマスターし,学生をできるだけ少人数に分け,そのグループに最適な教育方法で教育するといったことが理想的かもしれません.しかし,各教員がすべての教育方法をマスターすることも,少人数教育を徹底することも,非現実的です.各教員は,自分が良いと思い,かつ,得意とする教育方法を持っているはずです.他の教育方法の良いと思われる点を取り入れつつ,自分の教育方法に磨きをかけ,回りの雑音を気にせず,自分の教育方法を貫くことが真のFDではないでしょうか.その教育方法が多くの学生を引きつけるかもしれませんし,逆に,非常に少人数の学生だけに評判の良い講義になるかもしれません.しかし,それはどちらでも良いと思います.教員側にも多くのタイプがありますので,恐らく多くの学生は満足する講義が受けられるはずです.また,少数派の学生にとっても,良い講義を受けられる可能性が出てきます.
 ここ,10年以上,私はインターネットを利用した教育に力を入れてきました.講義ノートの内容をインターネット上に公開すると共に,自学自習が可能なコンテンツもいくつか公開してきました(菅沼のホームページ).他ページへの移動のし易さ,演習問題に対する自動的な正誤の判断,質問のし易さなど,良い点も多いかと思いますが,やはり,紙ベースを好む学生もいます.また,講義で直接使用するコンテンツの場合は,学生の反応を見ながら内容を変更していくことができますが,そうでない場合,内容に対する評価が得られない点も問題です.アクセス状況を見る限り,かなり多くの人が私のWebページを利用して頂いていると思っていますが,ごく希に誤りを指摘して頂ける場合もありますが,内容に対するはっきりした評価をほとんど得ることができません.従って,自分で考え,試行錯誤を繰り返しながらコンテンツの改善をしていかざるを得ません.今まで,理想的なコンテンツとは,コンテンツを読み,演習問題等を解いた学習者の実行結果等から,コンピュータがその学習者に最適な指導を行ってくれるようなものであると考え,そのようなコンテンツを開発したいと思っていました.つまり,コンピュータが,インターネット上の家庭教師になってくれるようなコンテンツです.しかし,最近では,少し考えが変わってきました.家庭教師を鬱陶しいと思う人もいるはずです.また,必要とする説明のレベルも人様々だと思います.教育方法と同様,すべての人が満足するコンテンツなどは作れないのではないでしょうか.様々なタイプのコンテンツが必要になると思います.今後,できるだけ多くの人が利用できるように,より多くの異なるタイプのコンテンツを用意し,インターネットを利用した教育を充実したものにしていきたいと考えています.