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「最強磁石」を超えていく研究(1)


2016年3月、小林久理眞教授(理工学部 物質生命科学科)の研究グループが発明した新しい磁性材料について、毎日新聞、日刊工業新聞、静岡新聞の各紙が記事を掲載しました。タイトルには次のような言葉が踊っています。

  「ネオジム磁石並み性能」 「レアアース使用半減」 「新結晶構造」

磁石に詳しくない人にとっては耳慣れない単語もあり、どれだけすごいことなのかピンとこないかもしれません。しかし、相当に意義のあるすごいことなのです。今回はそのすごさを見ていくことにします。

理工学部物質生命科学科
小林久理眞 教授

「ネオジム磁石並み」のすごさ

まず、比べているネオジム磁石について。この磁石はそもそも「最強磁石」と呼ばれているすごい磁石です。

工業用に作られる人工磁石は1917年のKS鋼にはじまり、その後、MK磁石、アルニコ5などが発明されてきました。磁石を評価するポイントはいろいろありますが、磁石の持つエネルギーの最大値(最大エネルギー積)に注目すると、1960年代前半まではせいぜい100kJ/m3(※1)にとどまっていました。ところがその後に発明された、サマリウム・コバルト磁石(1966年発明)とネオジム磁石(1982年発明)はその記録を大きく超えました。特にネオジム磁石は桁違いで、400kJ/m3を超える製品も出ているのです。

※1 kJ/m3:キロジュール毎立法メートル。ジュールは仕事量の単位。

アルニコ磁石(上)とネオジム磁石(下)の磁力の違い

ネオジム磁石の発明までは約15年おきに新しいタイプの磁石が現れ、磁石の特性が向上してきたといわれています。ところがネオジム磁石が発明された後は違います。磁性材料の研究は進んだにもかかわらず、その後、これを超える強い磁石は現れていません。35年もの間「最強磁石」の座にとどまっているのです。それだけ磁力が強く産業用途に適していて、取って代わる磁性材料を見つけることが困難だということです。

ノーベル賞発表の時期になると、ネオジム磁石の発明者、佐川眞人氏(インターメタリックス最高技術顧問、大同特殊鋼顧問)の名前が毎年、候補者として挙がります。彼の発明品が長い間、産業界を支え続け、電気自動車(EV)や風力発電のモーター、MRI(核磁気共鳴画像法)装置など、さまざまな分野で性能を飛躍的に向上させたことを多くの人が評価しているのです。

小林教授たちの発明品が「ネオジム磁石並み性能」ということは、この「最強磁石」に匹敵する磁力を持った磁性材料だということです。そして最強磁石を超える特徴も併せ持っています。

「レアアース使用半減」のすごさ

「最強磁石」=ネオジム磁石の欠点は温度特性です。室温では問題ないのですが、温度が上がるに従い磁石としての性能が弱まり、315℃(※2)を超えると磁石の性質はなくなります。実際、磁石として使える温度は80℃程度までです。

※2 315℃はネオジム磁石のキュリー温度。キュリー温度以上では磁石(強磁性体)は常磁性体となり、磁石の性質を示さなくなる
そこでジスプロシウムというレアアース(※3)を加えて温度特性を改善させます。150℃までの耐熱性が必要なエアコン向けにはジスプロシウムを5%入れ、200℃までの耐熱性が必要なハイブリッド車(HEV)向けには10%入れるといった具合です。ただしジスプロシウムを入れることで磁力は弱まります。それでも他の磁石よりは強いので、ハイブリッド車には「ジスプロシウム入りネオジム磁石」が使われているのです。

※3 レアアース:希土類元素。原子番号57番のランタン(La)から71番のルテチウム(Lu)までのランタノイド族15元素に、21番のスカンジウム(Sc)と39番のイットリウム(Y)を加えた17元素から成る。磁石に関係した元素としてネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ジスプロシウム(Dy)などがある。レアアースの鉱床は世界のさまざまな国・地域に存在するが、1980年代に中国がレアアースの開発・生産に力を入れはじめてから一時、価格が下落し、中国以外の国の鉱山は多くが閉山に追い込まれた。この結果、レアアース生産は中国が独占的な地位を握ることになる。そのシェアは例えば2010年には98%に達した

ところがジスプロシウムは高価なうえ生産国がほぼ中国に限られます。その中国が2010年にレアアースの対日輸出制限を行ったことは記憶されている人も多いかと思います。翌2011年にはレアアースの価格が急騰しました。ジスプロシウムの価格は、2010年6月の約300ドル/kg(※4)から、2011年9月には10倍に跳ね上がりました。同じくレアアースであるネオジムの価格も上がりました。2010年6月に60ドル/kg程度だった価格は1年後には7倍になったのです。

※4 2010年6月時点の価格:この価格も2005年の価格に比べると約8倍に上がった価格である

レアアースの価格はその後戻り、日米欧が共同で世界貿易機構(WTO)に提訴したこともあって価格は比較的安定して推移してきましたが、中国の出荷規制は続いています(※5)。

※5 2017年に入り、レアアースの価格は徐々に上がってきている


こうしたリスクがあるため、新しい磁石の開発ではレアアースを減らすことが重要な課題となりました。ネオジム磁石に匹敵する磁力、またはそれ以上の磁力を備え、かつレアアースの少ない磁性材料を探すこと、それは研究者にとって長い道のりでした。小林教授たちの新磁性材料はこの課題をクリアしました。ジスプロシウムの使用はゼロです。レアアースは使いますが、ネオジムより安価なサマリウムを使い、しかも使用量(重量%)が低く、材料供給のリスクを大きく減らせるのです。

小林教授たちの新磁性材料はもう一つ、ネオジム磁石を上回る特徴を備えています。温度特性です。キュリー温度は約600℃になりました。ネオジム磁石より約300℃も高い温度です。200℃付近ではジスプロシウム入りネオジム磁石よりも高い磁力が期待できますから、ハイブリッド車のエンジンルームでは今より高い性能を出せる可能性があるのです。

ではその「新結晶構造」はどのようにして発明されたのでしょう。次回は小林教授たちの研究アプローチを紹介します。

<続く>
•「最強磁石」を超えていく研究(2) ── 物質生命科学科 小林久理眞 教授


小林久理眞 教授プロフィル
1982年 東京工業大学大学院理工学研究科博士課程満了。
1995年 ルイ・ネール磁性研究所(CNRS) 客員研究員。
1996年 静岡理工科大学 助教授(理工学部)。
2005年より現職。