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静岡の都市に残る古びた長屋ビル、その再生のヒントを探る


富士駅前地区のアーケード商店街

車道の両側に伸びるアーケード商店街。建物をよく見ると商店ごとに独立した建物ではなく、長屋のようにつながった建物。地方都市ではこうした横長の共同建物をよく見かけるのですが、実は火災の延焼を防ぐ目的で造られた建造物であることが多いのです。

 1952年(昭和27年)、地方都市ではまだ木造家屋がほとんどだったこの年に「防火建築帯」の造成を促す法律(※1)が成立しました。鉄筋コンクリート造りの建物を街路に面して隙間なく帯状に建てることで、火災が起きたとしてもここで延焼をくい止める、いわば防火壁の役割を担わせる。その帯を防火建築帯と呼び、造成を呼びかけたのです。国から指定を受ければ補助金が出ますから、指定を受けやすい地方都市の中心部にある商店街のオーナーたちが名乗りを上げました。

※1 耐火建築促進法:この法律に基づき1952~1960年度の間に防火建築帯の指定を受けた案件は、全国91都市に及ぶ

さらに1961年(昭和36年)には上記の法律を拡充した法律(※2)が成立し、国は「防災建築街区」の造成を促します。ここでも多くの地方都市の商店街が名乗りを上げました。こうして「鉄筋コンクリート造りの長屋式共同商店建築」が、地方都市でよく見かける風景となったのです。

※2 防災建築街区造成法:耐火建築促進法を基に、目的や規模などを拡充した法律。指定を受けた鉄筋コンクリート造りの建物のある街区を「防災建築街区」と呼ぶ。1961~1968年度の間に全国101都市341街区の規模で造られた

 商店街に統一感のあるデザインをもたらしたこうした建物も時を経て老朽化が進みました。防災建築街区として建てられた建物も築50年以上が大半になってきたのです。建て替えやリノベーションを考えなくてはいけません。特に静岡県には45の防災建築街区が残っています。これは全国341街区の13%に相当し、都道府県の中でも4番目に多くの防災建築街区を抱えている県となっているのです。

 50年以上も歴史を刻むと、その景観はもはや街の顔ともいえるものになり、単に取り壊すのはもったいない。できれば再活用して都市の活性化にも役立てたいところです。しかし、問題は簡単ではありません。例えば、共同建築ですから一つの建物に複数のオーナーがいてそれぞれ思いが異なるなど、問題は山積なのです。建築学科の脇坂圭一教授は静岡県内の防災建築街区の調査に着手し、活性化のヒントを探り始めました(※3)。

※3 防災建築街区の調査:脇坂圭一教授は、2017年度、ふじのくに地域・大学コンソーシアムの共同研究助成にて「静岡県内に残る防災建築街区を対象とした中心市街地活性化に向けた検討」に、また2018年度より国の科研費補助金にて「地方都市中心市街地における共同建築ストックの評価・活用・更新に関する研究」に、いずれも研究代表者として取り組んでいる。

建築学科 脇坂圭一 教授

調査で見えてきた問題とヒント

静岡県に残っている防災建築街区は、浜松市に7街区、静岡市に4街区(旧清水市を含む)、富士市に17街区(旧吉原市を含む)、熱海市に17街区の計45街区です。またこれらの市には防災建築街区より前に、防火建築帯の指定を受けた場所もあります。2017年9月、脇坂教授はそうした街区の調査を始めました。

 調査を進めて見えてきた問題はいくつもありました。老朽化や耐震の不安など、古い建物ゆえの問題はもちろん、オーナーの高齢化や後継者がいないといった問題も挙がりました。

 大きな問題の一つは上でも指摘した共同建物に特有の問題、つまり意見のとりまとめが難しいことです。どこも築50年くらいなので雨漏りに悩まされる建物が多いのですが、屋上に防水を施すだけでも全員の合意が必要で大変なのです。建て替えやリノベーションともなると、一部の所有者がその意向でも、なかなか全員が一つの意見にまとまりません。

 もう一つの大きな問題は地方都市の中心部にある商店街に共通する問題です。それは、商店街を歩く人の数が減ったことです。人々の生活圏が郊外に広がったことや電子取引の増加で買い物を商店街でしなくてもよくなったといった背景があるのですが、これは商店街という場所が持つ価値を下げてしまう大きな問題です。一つの建物だけで解決できる問題ではないかもしれませんが、通りのにぎわいを取り戻さなければ、建物を再建することもテナント貸しすることもコスト的に難しくなります。

 調査をまとめたり、研究資料を参照するなかで、いくつかヒントらしきものは見えてきました。例えば建て替えやリノベーションの先行事例がありました。

 建て替えの先行事例は、福山をはじめ多くの都市で見られますが、その典型例が、下層部に商業施設、上層部に集合住宅あるいは宿泊施設を積んだ構成です。しかし金太郎アメのような構成は、一方でまちの個性を奪ってもいます。

 既存活用を行うリノベーションやコンバージョン(※4)は、熱海市ではパチンコ店だった建物をゲストハウスにコンバージョンし、まちの賑わい創出にも貢献している事例がありました。手間はかかるものの、建替ほどコストをかけずに既存活用する手法です。

※4 リノベーション、コンバージョン:リノベーションは用途を変更せずに資産価値を高める修繕・改装を行うこと。コンバージョンは用途を変更して資産価値を高める修繕・改装を行うこと


調査を静岡県から全国規模へ

 都市のにぎわいについては県内の多くの都市が中心部の空洞化に悩まされていました。しかし一つ、にぎわいを維持している都市がありました。静岡市です。その要因は道路境界線と建物の壁面位置の関係にあると脇坂教授は見ています。JR静岡駅から北西に伸びる呉服町通りでは歩道の幅が4.5m×2(両側)と広く、車道は片側のみの一車線しか無く、建物の計画時、歩道は2.5m×2(両側)の予定でした。しかし『商店街は街の廊下であり続けたい』と願った商店主たちが、建物の壁面線を後退させ、歩道の幅を広くしたのです。幹線道路を付け替えて、車道を一車線にしたことにより、呉服町通りは静かで、向かえのお店にも行き来しやすく、程よいスケールを持った、歩いて楽しい商店街になりました。

 ただし、すべての商店街が呉服町通りの方法を採ることは難しいでしょう。街を再生する最適な方法、かけられるコストは、それぞれの街により異なります。同様に、防災建築街区を再生する方法やかけられるコストも、それぞれの街やオーナーにより異なるでしょう。

 現在、脇坂教授は、札幌、仙台、氷見といった他都市の事例を調査すると共に、静岡では事業者の意向アンケート調査を行い、さらに浜松市や静岡市の行政担当者とも連携を図りながら、先に述べた「地方都市中心市街地における共同建築ストックの評価・活用・更新に関する研究」を推進しています。かつて、デンマークへの留学時に日々実感していた、小さくとも、それぞれに個性的で、生き生きとしたまちも参照しながら、ここ日本の地方都市がどのように生き続けられるのか、研究を通して模索しています。



脇坂圭一 教授 プロフィル
1971年 北海道札幌市生まれ 札幌西高校卒業
1995年 東北大学工学部資源工学科卒業
1997年 同大学工学部建築学科卒業 建築設計事務所勤務
2005年 東北大学大学院博士課程前期修了(阿部仁史研究室)
2005-2006年 オーフス建築大学留学(デンマーク政府奨学金)
2006年 JDSアーキテクツ(コペンハーゲン)所属
2008年 東北大学大学院博士課程後期修了
      東北工業大学兼任講師
      脇坂圭一アーキテクツ設立(ヒュッゲ・デザイン・ラボに改組)
2011年 名古屋大学 施設・環境計画推進室 准教授
2016年 現職