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【連携する研究者たち】ピンポイントで終わらせない産学連携の形


静岡理工科大学では、地元企業と大学の双方にとって多様なメリットを生み出す産学連携の形を模索しています。2018年3月には静岡市の靜甲(せいこう)株式会社と包括連携の協定を締結しました。教員の論文テーマに合わせて共同研究を進めるこれまでのピンポイント型連携に比べて、包括連携では長期にわたる共同研究や複数の教員との連携が容易にできたり、人材教育に効果があったりと、企業、大学の双方にとって、これまでにないメリットが出ているようです。同社の山田重良部長、そして共同研究を進めている機械工学科の桜木俊一教授と藤原弘教授にお話を伺いました(以下、発言者のお名前は敬称略、聞き手は物質生命科学科 山﨑誠志 教授)。

靜甲株式会社 山田重良 部長

――まず、靜甲の事業内容と、今進めている共同研究について教えてください。

山田 当社は静岡市に本社をもつ1939年創業の企業で、生産部門と商事部門があります。生産部門には、液体充填(じゅうてん)機などを設計・製造する事業(包装機械事業)と、精度が要求される歯車などの部品を冷間鍛造という技術を使って製造する事業があります。充填機と冷間鍛造という技術的に異なる分野の事業ではありますが、それぞれの部署で課題を抱えていて、大学との共同研究が必要だと感じていました。

まず充填機ですが、これは液体を容器に充填する機械です。対象となる液体は、医薬品や化粧品などさまざまで、最近は玉ねぎのみじん切りやゴマ、大根おろしなどを含んだ食品を扱うことも増えてきています。こうした液体をなるべく効率良く容器に充填したいのですが、充填速度が速すぎると周囲の空気を巻き込んで泡だらけになってしまう。液体の特性に応じて充填速度を制御する必要があるわけです。従来は、当社の技術者が経験と勘を頼りに調整していましたが、今後は機械がリアルタイムに最適な充填速度を判断するようにしたいと考え、桜木先生との共同研究を始めました。

機械工学科 桜木俊一 教授

桜木 靜甲からのお話を伺って、まず流体の粘性をきちんと把握する必要があると考えました。特に、ドレッシングやごまだれ、ケチャップといった非ニュートン流体(※1)の粘性が計測できないといけません。

※1 ニュートン流体と非ニュートン流体:水やアルコールなど低分子の液体の多くは、パイプ内を流れる際、流速が変わっても粘性は変わらない。これをニュートン流体という。一方、マヨネーズやケチャップなどは流速の変化に伴い粘性が変化する。これを非ニュートン流体という

そこで、パイプ内を通る液体の粘性をリアルタイムに計測する「圧損型粘度計」を共同で開発しました。これはパイプ内の離れた2点に圧力センサーを設置し、圧力の降下量を計測することで粘性を算出するというものです。実際に靜甲様の機械のパイプ内に設置して計測したところ、理論値とピタリ合致しました。今後はこの算出データを基に充填速度をリアルタイムに制御するシステムを作り、実装していく計画です。

山田 一方、藤原先生とは、冷間鍛造(※2)に関する共同研究をしています。当社の富士川工場では、この約40年間で約1300種類の金属部品を冷間鍛造で製造してきました。当社の技術力は高く、他社が作れないような高強度の金属材料でも高精度で成型できると自負しています。しかしその分、金型への負荷が大きく、数回の使用で金型が割れてしまうこともあり、コスト高という悩みを抱えていました。そこで現在、藤原先生と共同で、長寿命な金型の開発に取り組んでいるところです。

※2 鍛造:工具や金型などを使い、金属に力を加えて成形することを鍛造という。加工温度によって「熱間鍛造」や「冷間鍛造」などに分類される。熱間鍛造は金属材料を再結晶温度以上に加熱して成形する。比較的小さな力で加工ができ、複雑な形状にも対応できるが、高い寸法精度が必要な成形には向かない。一方、冷間鍛造は常温で成形する。金型を使った冷間鍛造は寸法精度に優れ、大量生産に向いているが、大きな圧力が必要となるため金型に負荷がかかり破損する頻度が高くなる。

機械工学科 藤原弘 教授

藤原 これまで靜甲では技術者の経験と勘に頼って割れにくい金型を作ってきたそうです。そこでまず、破損した金型の破面を本学の電子顕微鏡を使って詳細に観察するところから始めました。どの部分から亀裂が入ったのかなど、破損の原因を科学的に究明していくわけです。これまでの経験を基に割れにくい金型向け材料を試作しました。実際に試験したところ、耐久性が大幅に向上したことが確認できました。

山田 桜木先生、藤原先生と共同研究を始めてから、かれこれ1年が経ちますが、この1年でこれまでの経験と勘に頼る試行錯誤から科学的な視点へ、そして合理的な解決策へと、大きな意識変革ができました。これは当社の中だけでは決してできなかったことだと思います。

――包括連携協定では、技術の改良・開発などに加えて、人材育成が目的に挙がっています。今回の共同研究で学生や社員の方々はどのように関わっていますか。

桜木 圧損型粘度計の開発においては、私の研究室の担当分すべてを学部4年生に担当させました。装置の設計から試作、靜甲の工場での実証実験、そしてデータ収集・解析に至るまで、ほぼすべてです。彼はそれを卒業論文にまとめました。また、学生と靜甲、そして私とで共著論文を書き上げましたが、その論文は日本技術士会中部本部の2017年度研究業績発表会で優秀論文・発表賞を受賞しました。学生にとって受賞はうれしかったことでしょう。ですがそれ以上に、実際の製造現場を経験できたことは大きな財産になったと思いますよ。

藤原 冷間鍛造に関しては、私の研究室に靜甲の技術者を招き、学生と一緒に電子顕微鏡の使い方を学んでいただいています。靜甲の技術者にとっては新たな技術が習得できますし、一方、学生にとっては企業の技術者との交流という大変貴重な経験が得られて、両者にとって非常に有意義なことだと感じています。

――最後に、包括連携の今後の展望について聞かせてください。

山田 静岡理工科大学との包括連携の素晴らしいところは、論文作成という目的にテーマが引っ張られる連携ではなく、真に企業が困っていることに対して真摯に向き合っていただけていることです。今後も包括連携を通して、当社の技術者の意識改革を推し進めていきたいですね。

桜木 靜甲には、今後も我々が持っている科学的な知見を惜しみなく提供していきますし、一方、我々の学生に対しては実践の場を提供していただき、Win-Winの関係を築いていきたいと願っています。

藤原 靜甲の技術者の方に「実践ではこうだ」といった特別講義をしていただくのもいいのではないでしょうか。学生にとってはより刺激になります。逆に我々の学生の良さが靜甲の方々に伝われば、就職の面でのつながりも出来てくるのではないかと期待しています。


【関連リンク】
SISTブログ:靜甲株式会社と包括連携協定を締結しました
SISTブログ:日本技術士会中部本部の2017年度研究業績発表会で優秀論文・発表賞を受賞しました


##プロフィル
桜木俊一 教授 プロフィル
1981年 九州大学大学院総合理工学研究科
     エネルギー変換工学専攻修士課程修了
1981年 (株)小松製作所に入社、技術研究所エネルギー研究室に配属
1990年 スタンフォード大学大学院機械工学専攻
     高温気体力学研究所 Engineerコース終了
1997年 博士(工学)(九州大学)
2013年 現職

藤原弘 教授 プロフィル
1999年 立命館大学理工学研究科総合理工学専攻博士後期課程修了
1999年 高知工科大学工学部物質・環境システム工学科助手
2005年 立命館大学理工学部非常勤講師
2007年 立命館大学総合理工学院企画課助手
2008年 立命館大学グローバル・イノベーション研究機構研究員
2011年 同志社大学理工学部機械システム工学科准教授
2016年 現職