より大容量で使いやすい二次電池を求めて

東城友都 講師 理工学部 電気電子工学科

充電と放電を繰り返すことができる二次電池の重要性は、日に日に大きくなっています。自動車の動力は、化石燃料を使うエンジンから、電気を使うモーターとの併用のハイブリッドカー、さらに電気モーターのみの電気自動車へと変化しようとしています。電力の消費場所である事業所や家庭に太陽電池パネルを設置する場合には、発電量と需要の不均衡を平準化するための二次電池が不可欠です。社会全体が高速に充放電可能で大容量、かつ安全性の高い二次電池を求めているといって過言ではありません。

現在広く使われているのは、正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで充放電を行うリチウムイオン二次電池です。従来の鉛蓄電池やニッケル・カドミウム、ニッケル・水素電池などと比較すると、同じ重量でもはるかに大容量の電力を蓄えることができます。

負極材料の研究、リチウム以外のイオンの利用など基礎を追求する

東城友都講師は、二次電池の性能を高める研究を進めています。高性能化の基本は大容量化ですが、同時に、一層の安全性や長期間使うための長寿命化、充電時間の短縮なども追求しなくてはいけません。

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現在のリチウムイオン二次電池は正極にリチウムと遷移金属の複合酸化物、負極にグラファイト、電解質にリチウム塩を使っています。正極と負極の間には、絶縁のため、セパレータと呼ばれる高分子膜を挟みます。充電時には正極から負極へとリチウムイオンが移動し、放電時には逆に負極に吸着されたリチウムイオンが正極に戻ります。

日本における二次電池の技術開発目標やトレンドについては、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がロードマップを策定しています。それによると、電気自動車用のリチウムイオン電池として、2020年時点ではエネルギー密度は200Wh/kg、価格は2万円/kWh、寿命10年を実現し、10年後の2030年には500Wh/kg、1万円/kWh、寿命15年、2035年には700Wh/kg、5000円/kWh、寿命20年を想定しています。

二次電池の性能は、正極、負極、電解質の材料で決まります。そのため、研究開発は、既存バッテリーの性能を理論的な限界まで高めるアプローチと、大きな飛躍を求めて異なる材料を探究するアプローチがあります。東城講師は、後者の方向で研究を進めています。特に、負極のグラファイトについては、理論的な限界に迫る性能がほぼ実現しており、より高性能な材料の探索が急務となっています。

現在、負極材料の一つとして、グラファイトよりも単位質量当たり7倍も多くのリチウムイオンを吸着できる赤リンが有望視されています。ところが、赤リンはリチウムイオンを吸着すると体積が大きく変化するので、そのままでは負極がぐずぐずに崩れてしまいます。また、赤リンは絶縁体なので大きな電流を流す際に抵抗となり、電池の効率を悪化させます。

つまり、赤リンを負極とするリチウムイオン二次電池を実用化するためには、赤リンが崩れることなく、かつ赤リンから効率的に電子を引き出して電流を流せる負極構造が必要なのです。

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東城講師らの研究グループは、カーボンナノチューブの内部に赤リンを詰めて、保持する仕組みを考案しました。カーボンナノチューブは頑丈な分子で、電気をよく通すからです。作製した試料を負極に使った電池を試作したところ、現行のリチウムイオン電池に比べ、50回の充放電を繰り返した際の単位重量当たりの容量は2倍になり、また充放電効率99%以上という高い値を示しました。ただし、充放電を繰り返すことで容量が低下する傾向も認められたことから、「有望ですが一層の研究開発が必要です」と東城講師は述べていました。

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東城講師は並行して、電解質内を移動するイオンとしてリチウムではなく、マグネシウムやカルシウムを使ってはどうか、という研究にも着手しました。リチウムイオンは1価、すなわち電子1個分の電荷を持っています。これに対してマグネシウムやカルシウムは2価で、電子2個分の電荷を持っているので、同じ個数のイオンが正極から負極に移動すると2倍の電荷を運ぶことができます。単純に考えると2倍の電流を流せることになりますが、良いことだけではありません。マグネシウムやカルシウムのイオンはリチウムイオンよりも大きく重いので、移動させにくいからです。このため、実用的な二次電池を作るためには、電極の材質や構造を探索する必要があります。

2倍以上の性能向上には基礎研究による材料革新が不可欠

現在、二次電池の研究の中でホットなトピックは、リチウムイオンが小さな抵抗で通過することができる固体を電解質に使った全固体電池です。固体電解質により、より安全かつ大容量のリチウムイオン二次電池が実現できると期待されています。しかし現在のリチウムイオン電池の2倍以上の性能を目指すとなると、電解質だけでなく、電極やセパレータを含め、バッテリー全体での材料面の革新が不可欠となります。

「以前は、電池材料の基礎研究は、発見から実用化まで10年かかっていました。しかし最近では、中国がこの分野の研究に力を入れてきており、実用化までの期間が短くなりつつあります。中国は“力業”で実用品を作り、得られた経験を生かして開発を進めます。まだ材料開発では日本に一日の長がありますが、手を抜くことなく研究を加速させなければなりません」。東城講師はこのように決意を述べ、「二次電池の開発は社会へのインパクトが大きい研究テーマなので、やりがいがあります。若い方には、ぜひとも研究に参加してもらいたいですね」と呼びかけていました。

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研究者プロフィール

東城友都 講師
理工学部 電気電子工学科
2013年 信州大学大学院総合工学系研究科博士後期課程修了
2013年 静岡大学 学術研究員(工学部)
2014年 豊橋技術科学大学 助教(工学研究科)
2018年 現職
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