発想支援システム

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発想システム実現が困難である中雑把な理由

アイデアは、複数の知識の有意義な組合せである場合が多い。コンピュータで有意義な組合せを自動生成出来れば、それは「発想システム」となる。

しかし、組合せの数は膨大となる。平仮名の数が約70として、100文字から成る文章(平仮名の順列)の総数は70の100乗(宇宙の原子の推定数より多い)となり、コンピュータでも現実的な時間内で生成するのは不可能である。

優れた文章を書く人間の脳では、何らかの方法で言葉の結び付きを選択している。しかし、その方法は明らかになっていない(従って、プログラム化出来ない)。

そこで、コンピュータが複雑なアイデアを出力する「発想システム」はとりあえず無理と考え、せめてアイデアのヒントを提示するシステムとして「発想支援システム」の開発が試みられた。

創造技法(発想法)の利用

発想支援システムの研究者が目を付けた一つの方向として、創造工学の分野でコンピュータが発達する以前から開発されて来た創造技法(発想法)のシステム化がある。

例えばKJ法はカードを並べて行なうが、これを画面に表示するようなシステムが考えられた。システムが勝手に並べたカードの配置を「変えたくなる」事で発想が誘発されるという側面も指摘されている。

大規模データベースの利用

発想システム制作が困難な大きな理由として、発想のアルゴリズムが不明確である他に、アイデアの材料としての膨大な知識がコンピュータには欠落している事が挙げられる。この知識獲得のボトルネックの問題に対しては近年、約40万概念を擁するEDR電子化辞書等、かなり大規模な概念データベースや、大量コーパス等の言語資源も蓄積されて来たので、これを発想支援の材料として用いる方法が模索されている。

インターネット情報はそれ自体が巨大なデータベースであり、検索エンジンも発達している。検索エンジンを利用した発想支援システム構築も一つの流れとなっている。

検索のように捜すものを特化せず、大量データから何らかの有意義な情報を発見しようというデータマイニング技術の研究も盛んになっている。何らかの知識の導出は発想の一種と考えられ、知識の導出にまで至らなくても、興味深い傾向を見出す等、アイデアの材料を提供する場合もあるので、データマイニングも広義の発想支援の一種と考えられる。

進化型計算の利用

進化型計算は、制作物の作成はランダムに行い、たまたまよく出来たものを増やして改良を加える事により、次第に制作物の内容を改良していく。この制作物の評価をプログラム化出来れば、「発想システム」が実現できる。しかし、例えば出鱈目に並べた文字列の優劣を詳細に評価する方法は知られていない。絵画の画素毎の色彩、音楽の音符の並び、いずれも数字化出来るとすると、進化型計算では「作品の評価方法」と「作品の制作方法」が実は同じではないか?という興味深い仮説が提示される。

現実には、感性的な作品や其の他複雑なアイデアの評価をアルゴリズム化する方法はまだ知られておらず、このような分野では進化型計算も無力である。そこで、解(制作物)の評価部分だけ人間が行なう対話型進化計算が有力な手段として浮上する。しかし、対話型システムは繰返しに時間が掛るため、それだけで素晴らしい作品が出来る保証は無い。しかし、システムが提示する解を、中途半端なアイデア(=アイデアのヒント)と看做せば、これも一種の発想支援システムと考えられる。

発想システム制作の困難さは前述の通り、発想のアルゴリズム(計算手順)の不明確、発想に必要な膨大な知識(データベース)の欠如によるが、仮にこれらが備わったとしても、検討する知識の組合せの数が爆発的に増える結果、発想に至るまでの計算量(計算時間)が数億年も掛かるような事にも成りかねない。進化型計算、ニューラルネットワークといった組合せ最適化問題で成果を挙げた手法は、この計算量削減の面に於いても有効かもしれない。

発想支援システムの評価

開発されたシステムはその有効性を客観的に検証するためのテスト(評価)を受ける必要がある。発想支援システムについては評価方法の開発自体が研究テーマになる程、難しい側面がある(評価方法が開発されるとすれば、評価方法の評価が必要になると考える事も出来、キリがなくなってくる)。

発想システムであれば、作成されたアイデアを複数の人間の主観で評価し、統計処理する事になるが、発想支援システムの場合は、被験者の能力にも左右されるため、何処までがシステムの効果なのかの判定が難しい。システムの支援で作成されたアイデアに対する評価の他、被験者に発想上の刺激を受けたか等の使用上の感想を問う場合も多い。

或いは同一の被験者にシステムを使わずに発想させ、それ以上出なくなった段階でシステムを使用して追加のアイデアが得られるかを調べる場合もある。また、能力が互角の被験者を二グループに分け、用いたグループと用いないグループの作品の優劣を比較する場合もある。

作品に対する評価は内容にもよるが、「面白さ」「意外性」「斬新さ」「納得感」等の感性評価を5段階評価で行ったりする。また、何かに応用して客観的に「実用性」が計測出来るアイデアの場合は評価がやりやすい。

客観的に計測出来る項目として、被験者がどのボタンをどんな頻度で押したか、アイデアを書き込むまでの時間(アイデアのレベルが同じであれば短い程よい)等もある。発想支援システムを設計する際に、発想が刺激されている事が出来るだけ実証されるような操作上の構成にしておくことも重要となる。掛った時間が純粋に考えている時間か、操作上の時間かがなるべく区別出来る事が重要である。

被験者の属性(年齢、職業等)のうち、特にその問題に関わる点(背景知識の有無等)は詳細に記録する必要がある。意味のある統計処理を行なうには最低十人の被験者は必要となる。被験者は、その分野で創作能力の高い人ほど良いと考えられる。能力の高い人にも有効であればシステムの価値は高いと言えるし、能力の高い人ほどシステムのヒントを活用する可能性が高く、逆に使われないヒントは低価値と言える。

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