健康によい空調システムを見極める
建築学科
鍋島佑基 准教授
鍋島佑基 准教授
建物内を快適な空間にしようという機運が「健康経営」という言葉とともに盛り上がってきました。ストレスの少ない環境は健康に良く、そうしたオフィスでは生産性も上がるという認識が浸透してきたからでしょう。
室内環境を良くする装置やシステムの研究は進んでいます。建築学科の鍋島佑基准教授は、「デシカント空調システム」に注目しています。温度を調整する機構のほかに湿度を調整する機構を備えるため装置やコストは大きくなりますが、従来のエアコンに比べてエネルギーの無駄が少なく、また、結露が起きないのでカビの防止にも有効だといわれています。毎年、蒸し暑い夏を迎える日本にはうってつけの装置で、普及する可能性も高いのですが、乗り越えないといけない壁があるようです。
室内環境を良くする装置やシステムの研究は進んでいます。建築学科の鍋島佑基准教授は、「デシカント空調システム」に注目しています。温度を調整する機構のほかに湿度を調整する機構を備えるため装置やコストは大きくなりますが、従来のエアコンに比べてエネルギーの無駄が少なく、また、結露が起きないのでカビの防止にも有効だといわれています。毎年、蒸し暑い夏を迎える日本にはうってつけの装置で、普及する可能性も高いのですが、乗り越えないといけない壁があるようです。
水蒸気を吸着し吐き出すデシカント
デシカント・ローターの機能
デシカント(desiccant)とは乾燥剤のことで、シリカゲルやゼオライトなど水蒸気を吸着する素材(※1)を湿度調整に使います。吸着したままではいずれ吸着能力がなくなりますから、吸着剤は一般にローターやブロックなどに組み込んで放出と吸着のサイクルを繰り返すようにします(図)。
※1 素材表面の水蒸気濃度が高くなる現象を吸着と呼び、この能力の高い素材を吸着剤、あるいは吸着材と呼ぶ。吸着すると同時に素材内部に吸収する現象は収着という。収着剤をデシカント素材に使うケースもある。また液式デシカントを使うシステムも開発されている。
蒸し暑い夏に冷房と除湿を同時に行っているときの流れを想定してみましょう。外からきた湿った空気はデシカント・ローターを通すことで乾いた空気になります(※2)。湿度調整が終わった空気は温度調整機構(ヒートポンプ)に送られ、温度を下げた後、室内に供給されます。
※2 デシカント・ローターを通す前に予冷をすることが多い。温度を下げることで相対湿度が上がり、吸着が進みやすくなるため。図ではその説明は省いている。
一方、半回転したローターには熱した空気(エアコンの排熱や太陽熱、工場排熱などを利用。40~80℃)が吹きかけられます。そして水蒸気は脱離し外に放出されるのです。
通常のエアコン(コンプレッサー方式)でも除湿はできますが、そこではわざと10℃以下まで空気を冷却して結露させます。つまり、一度空気を設定温度よりも低い温度にして結露させて水分を取り除くのです。その後、加熱して設定温度に戻すというプロセスを採ります。つまり、過剰な冷却と加熱という相反する処理をするため、エネルギーの無駄があります。また、空調機内部に結露があるとカビが発生したりメンテナンスの手間が増えたりするなどの問題が生じるのです。
デシカント空調システムではこれらの問題はなくなります(※3)。また、図から分かるように外気導入が前提になっていますから、コロナ禍で問題となっている室内換気もできています。室内の空気だけを対象に温度を下げる従来のエアコンとの差別化になっているのです。
※3 ただし、極端に低い温度に設定すればエアコン部で結露は起きる。
※1 素材表面の水蒸気濃度が高くなる現象を吸着と呼び、この能力の高い素材を吸着剤、あるいは吸着材と呼ぶ。吸着すると同時に素材内部に吸収する現象は収着という。収着剤をデシカント素材に使うケースもある。また液式デシカントを使うシステムも開発されている。
蒸し暑い夏に冷房と除湿を同時に行っているときの流れを想定してみましょう。外からきた湿った空気はデシカント・ローターを通すことで乾いた空気になります(※2)。湿度調整が終わった空気は温度調整機構(ヒートポンプ)に送られ、温度を下げた後、室内に供給されます。
※2 デシカント・ローターを通す前に予冷をすることが多い。温度を下げることで相対湿度が上がり、吸着が進みやすくなるため。図ではその説明は省いている。
一方、半回転したローターには熱した空気(エアコンの排熱や太陽熱、工場排熱などを利用。40~80℃)が吹きかけられます。そして水蒸気は脱離し外に放出されるのです。
通常のエアコン(コンプレッサー方式)でも除湿はできますが、そこではわざと10℃以下まで空気を冷却して結露させます。つまり、一度空気を設定温度よりも低い温度にして結露させて水分を取り除くのです。その後、加熱して設定温度に戻すというプロセスを採ります。つまり、過剰な冷却と加熱という相反する処理をするため、エネルギーの無駄があります。また、空調機内部に結露があるとカビが発生したりメンテナンスの手間が増えたりするなどの問題が生じるのです。
デシカント空調システムではこれらの問題はなくなります(※3)。また、図から分かるように外気導入が前提になっていますから、コロナ禍で問題となっている室内換気もできています。室内の空気だけを対象に温度を下げる従来のエアコンとの差別化になっているのです。
※3 ただし、極端に低い温度に設定すればエアコン部で結露は起きる。
デシカント材料に求める性能を見極める
デシカント・ローター
吸着剤をすき込んだ紙を段ボールの波シートのように加工して充填している。
普及のネックは価格です。価格を上げている要因の一つがデシカント・ローターで、特にそこに用いられる素材です。そこで鍋島准教授は高価なものから安価なものまで、有望と思われるいくつかの吸着剤をデシカント・ローターに組み込み、その性能を調べています。現在は、一般空調が対象とする温度・湿度範囲であれば、それぞれの吸着剤に能力差があってもシステムにするとほとんど性能差がないことが分かっています。研究者の間でもこのことは話題になり、次のような推測が出てきました。
「吸着剤の性能評価で議論される吸着現象はゆっくりしたもの。素材によっては吸着量の推移データを取るのに3日かかる素材もある。これに対してデシカント・ローターを通過する空気が滞在するのは数秒足らず。さらに吸着と脱離は数分~数十秒のオーダーで繰り返される。つまり吸着剤の表層のやりとりだけが寄与しているのではないか」という推測です(これについては、現在も多くの研究者が実験と数値計算を通じて分析を進めています)。
これまでの研究では、回転するローター内部の温湿度を計測することは困難でした。しかし最近のセンサーの小型化と無線化技術は目覚ましく、数mmのセンサーが安価に市販されるようになってきました。そこで鍋島准教授は、あるデシカント・ローターに温度・湿度センサーと無線モジュールを取り付けて、ローター内部の吸着・脱離の様子を可視化することに着手しました。約10分に1回転させていたときはほぼ吸着できる能力いっぱいの水蒸気を吸着・脱離していましたが、速度を上げて2分に1回転にすると吸着する量が能力いっぱいになる前に脱離サイクルに移ってしまう様子が確認できたのです。まだ多くの素材で確認したわけではありませんが、どうやら推測の可能性は高いという感触が得られました。
この推測が正しければ、ローター開発に一つの指針が得られます。多くの水蒸気を長い時間かけて吸着する高価な素材よりも、適度な量の水蒸気を短い時間で吸着・脱離する素材がローターには向いているということです(事務所や学校などの一般環境に対して。業務用や特殊用途はそうでない場合もある)。
素材探しはいまだに重要なポイントですが、除湿能力を上げるには実装技術の工夫が大事なのかもしれません。1時間に除湿できる水分量は、(1サイクルで吸着できる水分量)×(1時間あたりのサイクル数) で決まります。除湿能力を上げるためサイクル数(回転数)を上げたくなりますが、素材の特性に合わせて回転数を最適化する必要があります。また、素材が広い面積で空気と接するよう、素材の加工やローターの作り方を工夫することも重要です。安い素材でも工夫次第で性能を伸ばせる可能性はありそうです。
現在、デシカント空調システムは何社かが製品として販売していますが、導入しているのはカビの発生を問題視する食品加工の工場や美術館、それに室内環境への関心が高い病院や学校、オフィスなどです。システムの価格が下がれば一般のオフィスや家庭にも導入されるようになるでしょうし、蒸し暑い東南アジアも大きな市場になるでしょう。 室内建築に携わる人は、デシカント空調システムの特性と価格動向を知って、適切な提案ができるようになっている必要があるかもしれません。
「吸着剤の性能評価で議論される吸着現象はゆっくりしたもの。素材によっては吸着量の推移データを取るのに3日かかる素材もある。これに対してデシカント・ローターを通過する空気が滞在するのは数秒足らず。さらに吸着と脱離は数分~数十秒のオーダーで繰り返される。つまり吸着剤の表層のやりとりだけが寄与しているのではないか」という推測です(これについては、現在も多くの研究者が実験と数値計算を通じて分析を進めています)。
これまでの研究では、回転するローター内部の温湿度を計測することは困難でした。しかし最近のセンサーの小型化と無線化技術は目覚ましく、数mmのセンサーが安価に市販されるようになってきました。そこで鍋島准教授は、あるデシカント・ローターに温度・湿度センサーと無線モジュールを取り付けて、ローター内部の吸着・脱離の様子を可視化することに着手しました。約10分に1回転させていたときはほぼ吸着できる能力いっぱいの水蒸気を吸着・脱離していましたが、速度を上げて2分に1回転にすると吸着する量が能力いっぱいになる前に脱離サイクルに移ってしまう様子が確認できたのです。まだ多くの素材で確認したわけではありませんが、どうやら推測の可能性は高いという感触が得られました。
この推測が正しければ、ローター開発に一つの指針が得られます。多くの水蒸気を長い時間かけて吸着する高価な素材よりも、適度な量の水蒸気を短い時間で吸着・脱離する素材がローターには向いているということです(事務所や学校などの一般環境に対して。業務用や特殊用途はそうでない場合もある)。
素材探しはいまだに重要なポイントですが、除湿能力を上げるには実装技術の工夫が大事なのかもしれません。1時間に除湿できる水分量は、(1サイクルで吸着できる水分量)×(1時間あたりのサイクル数) で決まります。除湿能力を上げるためサイクル数(回転数)を上げたくなりますが、素材の特性に合わせて回転数を最適化する必要があります。また、素材が広い面積で空気と接するよう、素材の加工やローターの作り方を工夫することも重要です。安い素材でも工夫次第で性能を伸ばせる可能性はありそうです。
現在、デシカント空調システムは何社かが製品として販売していますが、導入しているのはカビの発生を問題視する食品加工の工場や美術館、それに室内環境への関心が高い病院や学校、オフィスなどです。システムの価格が下がれば一般のオフィスや家庭にも導入されるようになるでしょうし、蒸し暑い東南アジアも大きな市場になるでしょう。 室内建築に携わる人は、デシカント空調システムの特性と価格動向を知って、適切な提案ができるようになっている必要があるかもしれません。
都市のにぎわいについては県内の多くの都市が中心部の空洞化に悩まされていました。しかし一つ、にぎわいを維持している都市がありました。静岡市です。その要因は道路境界線と建物の壁面位置の関係にあると脇坂教授は見ています。JR静岡駅から北西に伸びる呉服町通りでは歩道の幅が4.5m×2(両側)と広く、車道は片側のみの一車線しか無く、建物の計画時、歩道は2.5m×2(両側)の予定でした。しかし『商店街は街の廊下であり続けたい』と願った商店主たちが、建物の壁面線を後退させ、歩道の幅を広くしたのです。幹線道路を付け替えて、車道を一車線にしたことにより、呉服町通りは静かで、向かえのお店にも行き来しやすく、程よいスケールを持った、歩いて楽しい商店街になりました。
ただし、すべての商店街が呉服町通りの方法を採ることは難しいでしょう。街を再生する最適な方法、かけられるコストは、それぞれの街により異なります。同様に、防災建築街区を再生する方法やかけられるコストも、それぞれの街やオーナーにより異なるでしょう。
現在、脇坂教授は、札幌、仙台、氷見といった他都市の事例を調査すると共に、静岡では事業者の意向アンケート調査を行い、さらに浜松市や静岡市の行政担当者とも連携を図りながら、先に述べた「地方都市中心市街地における共同建築ストックの評価・活用・更新に関する研究」を推進しています。かつて、デンマークへの留学時に日々実感していた、小さくとも、それぞれに個性的で、生き生きとしたまちも参照しながら、ここ日本の地方都市がどのように生き続けられるのか、研究を通して模索しています。
ただし、すべての商店街が呉服町通りの方法を採ることは難しいでしょう。街を再生する最適な方法、かけられるコストは、それぞれの街により異なります。同様に、防災建築街区を再生する方法やかけられるコストも、それぞれの街やオーナーにより異なるでしょう。
現在、脇坂教授は、札幌、仙台、氷見といった他都市の事例を調査すると共に、静岡では事業者の意向アンケート調査を行い、さらに浜松市や静岡市の行政担当者とも連携を図りながら、先に述べた「地方都市中心市街地における共同建築ストックの評価・活用・更新に関する研究」を推進しています。かつて、デンマークへの留学時に日々実感していた、小さくとも、それぞれに個性的で、生き生きとしたまちも参照しながら、ここ日本の地方都市がどのように生き続けられるのか、研究を通して模索しています。
研究者プロフィール
鍋島佑基 准教授
建築学科
2014年 北海道大学大学院工学院 空間性能システム専攻 博士後期課程 修了
2014年 北海道大学大学院工学研究院 空間性能システム部門 博士研究員
2015年 株式会社テクノフロンティア 主任研究員
2016年 豊橋技術科学大学 建築・都市システム学系 助教
2019年 静岡理工科大学 理工学部 建築学科 講師
2022年 静岡理工科大学 理工学部 建築学科 准教授
建築学科
2014年 北海道大学大学院工学院 空間性能システム専攻 博士後期課程 修了
2014年 北海道大学大学院工学研究院 空間性能システム部門 博士研究員
2015年 株式会社テクノフロンティア 主任研究員
2016年 豊橋技術科学大学 建築・都市システム学系 助教
2019年 静岡理工科大学 理工学部 建築学科 講師
2022年 静岡理工科大学 理工学部 建築学科 准教授