ビッグデータから価値あるデータを紡ぎ出す

水野信也 准教授 情報学部 コンピュータシステム学科

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「ビッグデータは新たな資源だ」という認識が広まっています。例えばコンビニのポイントカードやスマホが発信する情報は日々吸い上げられ、ビッグデータへと変わっていきます。ただ、そのままでは価値は生まれません。そうしたデータから価値ある情報を紡ぎ出しているのがデータサイエンティスト(※1)です。

※1 データサイエンティスト:数学や統計学などを使いデータを分析する人。あるいはその手法を開発する人


今、データサイエンティストには多くの企業や官庁、自治体から声がかかります。「自分たちも多くのデータを抱えている。分析してもらえば、あるいは問題を解決したり価値ある情報を得たりできるのではないか」。そう思うからです。

水野信也准教授(情報学部コンピュータシステム学科)の元には多くの共同研究案件が舞い込みますが、その中には“データサイエンティスト集団、水野研究室”を期待した案件がかなりの割合を占めているようです。例えば医療分野からは、医療圏(※2)の案件が舞い込んできました。

※2 医療圏:地域の実情に合った医療を提供するため、都道府県は一次医療圏から三次医療圏までの地域単位を定め、病床の整備などを図っている。一次医療圏は日常生活に密着した医療の提供を想定した区分で基本的に市町村単位。二次医療圏は入院治療を主体とする一般的な医療の提供を想定した複数の市町村からなる区域。三次医療圏は先進的な技術を必要とする特殊な医療の提供を想定したもので、都道府県が1区域となる(ただし、北海道は6区域、長野県は必要に応じて4区域となる)

データに基づいた提案は「説得力が違う」

厚生労働省から舞い込んできた課題は二次医療圏の最適化でした。二次医療圏は全国で344に分けられていますが(2016年4月時点)、常に見直しが検討されていて、厚生労働省が2016年に開催した「医療計画の見直し等に関する検討会」でもその見直しの必要性が示されました。

見直しが必要な理由はいくつかありますが、高齢化など人口構成の変化は大きな要因です。例えば2010年から2040年の30年の間に、75歳以上人口の増減率が100%以上となる二次医療圏がある一方、逆に減る二次医療圏もあります。それを受けて医療需要のピーク時期も地域によって大きく異なり、今のまま同じ医療サービスを続けていたら2040年が需要のピークとなる二次医療圏もあれば、2010年がピークで需要は下がる二次医療圏もあるのです。

この最適化問題に水野研究室は取り組みました。必要なデータはすでにあります。厚生労働省や日本医師会では、都道府県や医療圏ごとの人口、高齢化率、人口増減率といった地域の情報のほか、診療科別の施設数、病床数、医師数、介護施設数などの医療資源のデータを公開しています。これに全国の救急搬送データ約600万件を組み合わせ、二次医療圏の最適化に取り組んだのです。

水野研究室が提示したのは最適化の案(結論)だけではありません。データ解析によって導き出した数理モデルの有効性をシミュレーションで示したり、機械学習を用いた将来の予測にまで及びました。データに基づいたこうした精緻な検証や予測はこれまであまりなかったのでしょう、説得力が違うと関係者は大いに喜んだそうです。

「IT領域では当たり前とされてきたデータ解析も、他分野では驚くほど高く評価されることがあります。医療分野では特に紡ぎ出された情報の価値が高いことが多いです」(水野准教授)。

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情報学部コンピュータシステム学科
水野信也 准教授

意欲的な学生たちが共同研究に参加

飛行機の管制システムや鉄分子のふるまいなど、データサイエンティストが活躍する共同研究はほかにもあります。静岡理工科大学がある袋井市とは、3万人程度の来場者が見込まれる花火大会の人の動きを予測し、警備体制の最適化などを行っています。社会課題の解決に役立つプロジェクトは多く、テロや災害対策時の避難経路の確保、人の流れの可視化など、安全・安心のための取り組みは今後も増えていきそうです。

水野研究室の強みはデータの扱いに長けた学生たちが揃っていること。研究室ではデータ解析に必要なデータのクリーニング、データベース化、可視化までを必須のスキルとして学生たちに課しています。そして共同研究を行う企業や自治体に対して、必ず「学生たちを参加させてもらう」ことを約束事としているのです。

「さまざまな分野を手がけるのは大変そうだとよく言われます。しかし、データは違っても解析手法は同じなので分野が違うことによる苦労はそれほどありません。また学生にとってもさまざまな分野にチャレンジすることはステータスにもなりますし、チャレンジの結果を彼らの実績として発表できるので、お互いに良い関係が築けています」(水野准教授)。

水野研究室が手がける共同研究の分野はまだ広がりそうです。

研究者プロフィール

水野信也 准教授
情報学部 コンピュータシステム学科
2005年 静岡理工科大学専門学校部門教諭。
2008年 静岡大学大学院理工学研究科システム科学専攻後期博士課程修了。
2009年 静岡大学情報基盤センター客員准教授。
2014年 静岡理工科大学総合技術研究所客員准教授。
2015年より現職。
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